カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社

代表取締役社長兼CEO

髙橋 誉則

クライン ダイサム アーキテクツ

建築家

アストリッド・クライン

Profile

アストリッド・クライン クライン ダイサム アーキテクツ(KDa)代表。多言語・多文化の豊かなバックグラウンドを持ち、アートへの深い情熱から、形や色、質感が織りなすユニークなデザインの感性をもつ。KDaでは、記憶に残るアイコニックな建築と、ヒューマンスケールで居心地のいい空間デザインで、ディスティネーションとなる、楽しくて訪れたくなる場所づくりを目指している。またKDaが創設した「PechaKucha」は、世界1,300都市に広がるネットワークとして愛されている。

2011年に開業した「代官山T-SITE」をはじめ、CCCの12の建築プロジェクトを手掛けているクライン ダイサム アーキテクツ。ランドスケープ全体からデザインをする、これまでとは一線を画す設計で、代官山の街に新たな居場所をつくりました。その歩みを、クライン ダイサム アーキテクツのクラインさまとCCC髙橋が語り合います。

「店舗」ではなく、「わが家」のような空間にしたい。

「代官山T-SITE」は、それまでのTSUTAYAの業態とは異なる「書店を中核とした文化複合施設」として、2011年12月にオープンしました。施設の設計を手がけたのはクライン ダイサム アーキテクツ(以下KDa)の皆さまです。クラインさんと私たちとの最初の出会いは、このときでしたか?

クライン カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が建物を設計してもらう相手を決めるにあたり、各社の建築プラン提案に先立って事前説明会をしましたよね。あのときです。私がこれまで参加した中で一番大きなコンペで、150人くらいの建築家が会場に集まっていました。「WOW!! 何これ⁈」とびっくりしたのを覚えています。

髙橋 そんな規模感、なかなかないですよね。その後、80を超える建築家にプランをご提案いただいた結果、KDaさまに依頼することになったわけですが。「代官山T-SITE」は大小さまざまな低層の建物群で構成されていて、そのうち旧山手通り沿いに面した3棟には「代官山 蔦屋書店」が入っています。小さな専門店が気持ちのいい遊歩道で結ばれていて、四季を感じられる豊かな緑があって。その後の蔦屋書店の世界観を方向づけた、唯一無二の建築デザインです。

クライン 「代官山T-SITE」のコンセプトは「わが家の居心地」です。事前説明会で増田さん(※)から「いかにも“店舗”という空間ではなく、“家”にいるような雰囲気を」という説明があったので、従来の複合型商業施設とはまったく異なるたたずまいをつくろうと思いました。

※カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の創業者であり、現取締役会長である増田 宗昭。

髙橋 店舗ではなく家。自宅のリビングにいるような居心地のよさですね。

クライン そう。みんな居心地のいい場所は大好きだし、居心地がよかったら用事がなくてもつい行きたくなるものでしょ。そんな空間を実現するために、建物のデザインだけではなく、屋外を含めたランドスケープ全体を考えるところからスタートしたんです。

髙橋 なるほど、ランドスケープから。その空間が居心地いいかどうかって、お客さまは無意識に感知しますからね。設計やマテリアルなどの詳細はわからなくても、無意識レベルでちゃんと感じている。

クライン その通りです。具体的には、木々の中に見え隠れするよう建築群を点在させ、建物間は遊歩道でつなぎ、朝日が最も差し込む場所にはカフェを、屋外には自由に座れる椅子とテーブルをたくさん置きました。そうやって、「代官山T-SITE」を構成するすべてを、「居心地のよさ」起点で考えていきました。

「T」の字のモチーフで、建物全体を看板にしよう。

「代官山T-SITE」の建築は、ほかにも見どころがいっぱいあります。たとえば、「T」の字をモチーフにした印象的なファサードには、どんな工夫がありますか?

代官山T-SITE

クライン 建物の外装部分には小さくて白い「T」の字を、そしてその小さな「T」の字をたくさん連ねることで、外観いっぱいに大きな「T」の字が浮かび上がるデザインにしました。建物に近づいて見たときと引いて眺めたとき、それぞれに表情が違って面白いでしょう。

髙橋 大小ダブルの「T」の組み合わせ。すごい発想ですよね!

クライン 代官山では景観を守る必要から、大きな看板を出すのは難しい。それなら、建物自体を看板にしてしまえば素敵になるんじゃない? 使っていたTカードを取り出してじっと見ていたとき、そんなアイデアが浮かんできました。

髙橋 なるほど、そうでしたか。個人的には、窓際席が多いのも気に入っています。外から見ると、訪れた人がくつろいで過ごしているのがわかって、思わず引き寄せられてしまいますよね。

クライン そうそう。外壁にはガラス面を多く取って、外から見ても中から見ても、柔らかく開放的な空間になるよう仕上げました。夜になると、2階のガラス越しに小さな明かりがポツポツと浮かび上がって、とっても素敵なんですよ。

髙橋 本当に誰かの家みたいですね。蔦屋書店の3棟には、どんな工夫を?

クライン 3棟別々ではなく1つの建物に感じられるよう、シームレスな空間づくりを心がけました。人って境界線のない空間に足を踏み入れると、特に目的がなくても「何か面白いものはないかな?」と、歩き回りたくなるものでしょう。

髙橋 新しいものとの出会いを誘う空間ですね。クラインさんがおっしゃる通り、「代官山 蔦屋書店」には偶然の出会いを求めて来店するお客さまが、本当に多くいらっしゃいます。

「代官山T-SITE」で、新しいスタンダードを生み出せた。

「代官山T-SITE」は、開業14周年を迎える今も、訪れる方々にインスピレーションを与え続けているスポットです。髙橋社長は、「代官山T-SITE」を通してどんな発見がありましたか?

髙橋 先ほどから「居心地のよさ」を起点にした空間づくりについて話していますが、正直に振り返ると、「代官山T-SITE」以前の私たちの価値の優先順位はその逆で、「居心地のよさ<商品」でした。大きな売り場にたくさん什器を置いて商品を並べて…と、常に「商品」起点で空間を考えていたんですね。ところが、「代官山T-SITE」でそのモノサシが逆転した。「商品をいかに買っていただくか」から「お客さまにいかにゆったりくつろいでいただくか」という発想へと塗り替えられたのが私自身とても新鮮で、パラダイムシフトが起きた瞬間でした。もちろん、最初のうちは「それで本当に売上が上がるのか」という不安もありましたが。

クライン それはよくわかります。でも、モノを買う立場の実感としては、街を歩いていて次々に看板や広告が目に入ってくると、なんだか疲れてしまうんです。「私は“歩く財布”じゃないぞ」って。購買行動はあくまでも結果であって、居心地のいいその場所にもっと長くいたいからこそ、自然とモノが買いたくなる。そう思いませんか?

髙橋 今ならそれがよくわかります。実際「代官山 蔦屋書店」では、1冊だけ買ってすぐに帰るのではなく、何冊も本を積んで店内でゆっくり楽しんだあと、複数冊を買ってお持ち帰りいただくお客さまが実に多いんです。

クライン その気持ち、よくわかります。

髙橋 あらためて今、「代官山T-SITE」の立ち上げこそCCCのイノベーションの出発点だったと感じます。「居心地のよさ」は、景観・建物・コンテンツなど、店舗の特定の要素にだけフォーカスして得られるものじゃない。すべてがひとつに混ざり合った結果、はじめて実現されるものです。

クライン 同感です。今の時代はオンラインで大抵のことが解決できるからこそ、リアル店舗でしか得られない「本物の体験」が求められています。

髙橋 いろんな方に会うと、「髙橋さん、「代官山T-SITE」に毎日通ってますよ」とか「犬を連れてよく散歩に行きます」などと声をかけてくださるんです。それを聞くと、この場所がお客さま一人ひとりの生活の中にしっかりと根を張り、人生をより豊かにしていることが実感できて、うれしさがこみ上げてきます。

クライン CCCの皆さんと同様、私たちKDaもこれまで未知の経験にチャレンジし続けてきました。きっと、自分たちの手で新しいスタンダードを生み出すのが好きなのね。「代官山T-SITE」では確かにそれができたと、誇らしい気持ちです。

つくりたいのは、「つながり」が自然発生する空間。

「代官山T-SITE」以降、KDaさまとは12の建築プロジェクトをご一緒しています。2014年12月にオープンした「湘南T-SITE 」、2015年5月にオープンした「梅田 蔦屋書店 」、2023年3月にオープンした「軽井沢コモングラウンズ 」…特に印象深いプロジェクトはありますか?

クライン あえてひとつ挙げるなら、最もチャレンジングだったという意味で「梅田 蔦屋書店」ですね。「梅田 蔦屋書店」では百貨店内のワンフロアという制約がある中、どうやって蔦屋書店らしい個性を際立たせるかに腐心しました。その結果、1,000坪を超える売り場を区切ることなくシームレスな空間としてとらえ、1周155mの楕円形の本棚を中心にループが織りなす空間に仕上げました。

梅田 蔦屋書店

髙橋 蔦屋書店全体が、巨大なひとつの部屋になっていますよね。何回行っても「すごい空間だなあ!」と感動します。ところでクラインさんは、これからやってみたいことはありますか?

クライン 「つながり」を育む場づくりにチャレンジしたいですね。そこに身を置く人たちが自然とリラックスして、隣にいる人に話しかけたくなるような、そんな空間を設計してみたい。2015年夏に完成した「相馬こどものみんなの家(※)」は、その試みのひとつです。

Koichi Torimura

※東日本大震災で被災した人々を支援するためのコミュニティ・プロジェクト「HOME-FOR-ALL」の一環として、KDaが設計した家。屋外の放射能を心配した親たちの「子どもたちを安心して遊ばせる屋内スペースが欲しい」という要望に応えて建設されました。最大の特徴は公園にふわりと舞い降りた「麦わら帽子」のような、柔らかな形の屋根。この屋根を、鳥やリスなどのモチーフと一体になった樹の形をした3本の柱が、しっかりと支えています。資金はTポイントを通じた寄附金によって賄われています。

髙橋 触れ合いを求めてふらっと行ける場所が日本全国にあったら、どんなに素敵でしょう。

クライン そういえば、はじめてカルチュア・コンビニエンス・クラブという社名を聞いたとき、面白い組み合わせだなあと思ったの。欧米人の感覚では、「カルチュア」と「コンビニエンス」は相反するものだから。

髙橋 言われてみると、その通りですね。

クライン CCCはこれまで、「カルチュア」を一部の人のものではなく、「コンビニエンス」に広めるための活動をしてきたでしょう。そこに今後「クラブ(=人と人とのつながり)」の要素が加わったら、さらに面白いシフトが起きるんじゃないかしら。私はいつも、若い世代の人たちに「パッションが大切」と話しているんです。たとえ経験やテクニックが少なくても、パッションさえあれば人の心を動かすことができるから。それぞれが胸に秘めたパッションを共有する「クラブ」をCCCがプロデュースしたら…考えただけでワクワクするわ。

髙橋 まさに「つながり」を育む場づくりですね。クラインさんとぜひ一緒にチャレンジしたいです。

  • CCCはオートバックスの文化を変えた存在。
    進化のために、未来へ。

    株式会社オートバックスセブン
    代表取締役 社長

    堀井 勇吾

  • CCCとスターバックス、共創が織りなす
    未来の「BOOK & CAFE」

    スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
    代表取締役最高経営責任者 (CEO)

    森井 久恵

  • 地域と出会い、未来を育む。
    CCCと拓く、これからの時代の図書館。

    宮城県
    多賀城市市長

    深谷 晃祐

  • 固い絆で結ばれて40年。
    先駆的な挑戦で、出版業界に変化の風を。

    日販グループホールディングス株式会社
    代表取締役社長

    富樫 建

  • ワクワクを紡ぐ仲間として。
    「新しい時代のTSUTAYA」へ。

    株式会社ビッグワン
    代表取締役会長

    大村 一夫

  • CCCとともに、規格外の発想で。
    「未来の銀行」の創造へ。

    株式会社三井住友フィナンシャルグループ
    取締役 執行役社長 グループCEO

    中島 達