
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
代表取締役社長兼CEO
髙橋 誉則
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
代表取締役最高経営責任者(CEO)
森井 久恵
Profile
森井 久恵 約20年間グローバル企業にてマーケティングに従事し、お客さまに直接笑顔を届ける仕事がしたく、2018年8月にCMOとしてスターバックス コーヒー ジャパンに入社。23年10月よりCRMOとしてマーケティングや商品、デジタルに加えて店舗運営・営業企画を統括。25年4月より現職。家族は夫と娘2人がおり、趣味は家族旅行とヨガ。私生活では子供の教育について関心があり、タイのNPO活動やガールスカウトのイベントに参加。
2003年の1号店誕生以来、書店とカフェが融合した「BOOK & CAFE」スタイルは、CCCとスターバックス コーヒー ジャパンの共創によって、新しい文化として定着してきました。その歩みと価値観を、CCC髙橋とスターバックス コーヒー ジャパン森井社長が共にみつめあいます。居心地のよさや地域とのつながり、そして未来への想い──その共創の軌跡をたどります。
CCCは、「文化」を一緒に創ってきた仲間。
今日の対談は、スターバックス コーヒー ジャパン(以下SBJ)さまとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が一緒につくった「BOOK & CAFE」スタイルの店舗1号店、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(現在は六本木 蔦屋書店)」で行います。アメリカでスタートしたBOOK & CAFEを、日本国内ではじめてオープンしたのが2003年でした。
髙橋 ここが1号店。感慨深いものがありますね。書籍売場とカフェが併設したBOOK & CAFEはCCCの代表的なライフスタイル提案のひとつですが、すべてはこの場所から始まりました。この1号店がオープンしたのち、2005年にはSBJさまとライセンス契約を結び、新しい書店のスタイルとして本格的に展開していきました。
森井 大げさかもしれませんが、SBJにとってこの22年は、CCCと「文化を一緒に創ってきた」という感覚が強くあります。振り返ると、1996年にスターバックスが日本に上陸したのち、それまで主流だった喫茶店文化に新たにカフェ文化が根付いていきました。時を経て、今度はBOOK & CAFEスタイルの店舗が多くのお客さまに支持された結果、「コーヒーが飲める書店」が人々のスタンダードになりました。
髙橋 購入前の書籍や雑誌をカフェ席でコーヒーを楽しみながら選べるBOOK & CAFEって、最初はびっくりする人が多かったですよね。「えっ? コーヒーを飲みながら買っていない本を読んでいいの?」と。
森井 「えっ? コーヒーを片手に本や雑誌を読みながら、何時間も過ごしていいの?」と驚かれるお客さまも多かったです。

髙橋 BOOK & CAFEスタイルは、単に書店とカフェがくっついたら素敵だねという企画ではないと、私自身は捉えています。まず発端として、スターバックスが大切にしているお客さまや地域の方々にとっての「サードプレイス(家、学校や職場以外の第三の居場所)」であること、ライフスタイルを提案する私たちCCCが理想と考える「書店の新しいあり方」が重なり合い、心から共鳴しました。その結果、共通の価値観をもつ二社のサービスがひとつの空間で融合し、唯一無二の「居心地」を実現できた。BOOK & CAFEスタイルの魅力は、そんな両者の融合にこそあると私は感じています。
森井 同感です。そしてお客さまも無意識に、あるいは意識的に、私たちが大切にしている価値観に共感してくださっているからこそ足を運んでいただけていると思っています。
訪れた方に、「驚き」と「ワクワク」を届けたい。
森井社長にご質問です。スターバックスがお客さまに届けたい体験価値についてお聞かせください。
森井 私たちは「人々の生活に潤いと活力をお届けするために、1杯を大切に、ひとりのお客様を大切に、1つの地域を大切に」(※)というミッションを中心に据えて 、日本中のパートナー(従業員)とともに多くのつながりを育んできました。私たちは社内で、「Surprise&Delight」という言葉をよく使うんですね。おいしいコーヒーと居心地のよさはもちろんのこと、訪れてくださるお客さまに「ちょっとした驚き」や「心弾むワクワク」をお渡ししたい。そんなニュアンスを込めたフレーズなんです。そしてその想いは、CCCとともにつくるBOOK & CAFEにおいても変わりません。
※ミッションは取材時のものです。

髙橋 CCCが手がける書店もまさに同じで、目当ての本を急いで買って帰るのとは異なる体験をお届けしたいと、ずっと考えてきました。ふらっとお店に来て店内を歩き回ると、予期せぬ偶然の出会い、心が明るくなる幸福な出会いが待っている。そんなお店ができたら最高だなと思っています。
森井 個人的には、コーヒーの香りを楽しみながら本を選ぶのが好きなんです。五感が刺激されるというか。
髙橋 そうそう、本とコーヒーは「家でくつろぐ」には欠かせないアイテムです。だから、蔦屋書店では、家でゆったり過ごす感覚で店内を楽しんでいただけるよう、さまざまな工夫を凝らしています。

森井 私も蔦屋書店を訪れるたびに、「人の心をつかむ店舗づくり・空間づくりをしているなあ」と刺激を受けます。たとえば「代官山 蔦屋書店」に行くと、家にいるような落ち着きに加えて、そこに身を置く自分自身のことも「いいな」と感じられ、豊かな気持ちになります。
髙橋 うれしいですね。まさに「代官山 蔦屋書店」立ち上げのとき、「お客さまが絵になる店にしよう」と増田(※)が話していたことを思い出します。代官山の街を歩いていて、ふと建物に視線を向けると、窓越しにくつろぐお客さまの姿とスターバックスのロゴが入ったカップが見える。
※カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の創業者であり、現取締役会長である増田 宗昭。
森井 確かに絵になりますよね。居心地のよさにプラスして、そこにいる自分を素敵だと思えたり、気分を高めてくれたり。その両方を感じさせてくれる空間だからこそ多くの方々が足を運んでくださるのだと思います。私もその一人です。

求めているのは、「ゆるくつながれる」サードプレイス。
お二人にご質問です。人々が集い、会話し、考える場所としてのBOOK & CAFE は、「地域コミュニティ」が育まれる場としても重要な存在です。これから先、それぞれの地域とどのように歩んでいきたいですか?
森井 SBJは「つながりを通じて多様性あふれる心豊かな地域・社会を日本中に創造する唯一無二のブランドとなる」というビジョン(10 year Vision)を掲げています。スターバックスが各地域にとって欠かせない存在であるために、何ができるかをいつも考えています。
髙橋 SBJさまとのBOOK & CAFEは全国各地にありますが、人口が比較的少ない地域への出店でも、ご来店客数や売上が事前の予測をはるかに上回るケースがとても多いのです。行列ができるほどの賑わいを何度も見て、お客さまの隠れた熱量とニーズを感じました。単純に人口だけを見て、出店するか否かの判断をしてはいけないと学ばされた体験です。
森井 皆さんBOOK & CAFEをご自身なりの楽しみ方で過ごされていますよね。スターバックスの各店舗でも、お客さまそれぞれが多様な過ごし方をされています。たとえば自分へのご褒美に季節ごとの限定商品を楽しんだり、親子で訪れたお客さまがお店では普段とは違う会話で弾んだり、ご高齢の方が毎朝ご来店くださり、「1日1回の生存確認よ」とパートナーと冗談を交わしたり、パートナーとの会話を楽しみにしてくださっているお客さまも多くいらっしゃいます。

髙橋 密なコミュニティではなくて、何となく「見守り-見守られ」の関係にある、ゆるいコミュニティですね。
森井 はい、CCCとつくるBOOK & CAFEも、「ゆるくつながれる場所」として、よりいっそうみなさまにご活用いただきたいですね。心に留めておきたいのは、私たちのほうから「こんなふうに過ごしてください」と定義するのではなくて、一人ひとりが自分に合った過ごし方ができるような余白を、ちゃんと残しておくこと。それがゆるいコミュニティを育むポイントではないでしょうか。
髙橋 余白…その通りですね。ところで、TSUTAYAや蔦屋書店も「地域に交流を生む書店」を目指しています。書店って毎日行く場所ではないですが、BOOK & CAFEであれば、お客さまが日常の一部として通うカフェの延長線上に、本と触れ合う機会をご用意することができます。この「カフェ→書店」という自然な流れが、実は大切なキーだと私は思っています。
森井 「1杯のおいしいコーヒー」と「本との思いがけない出会い」の両方をご提供できる場所。まさに先ほどお話した「Surprise&Delight」な体験ですね。
髙橋 私たちの書店では、ご自分用に本を購入するお客さま以外に、お子さまやお孫さまに本を贈るためにご来店される方も多いんです。大切な誰かのために本を選ぶひとときって、とても心が豊かになると思いませんか? BOOK & CAFEが、そんな幸せな時間を生み出す場になってくれたら最高ですね。

大切なのは、情熱を注げる何かがあるかどうか。
最後に森井社長、若い世代に伝えたいことはありますか?
森井 月並みかもしれませんが、自分が情熱を注げる何か、心を込めて関われる何かを見つけてほしいですね。便利で何でも手に入る今の時代、「こんなスキルも必要」とか「あれもこれも揃えないと」と、何かを「加える」ことばかりに意識が向きがちだと思うんです。けれど、生きていくうえで大切な力は、もっとベーシックな部分にあると私は思っています。たとえば「これをやってみたい」「これについてもっと知りたい」など、自分の内側から湧き上がる情熱があれば、きっといくらでも成長していけるはずです。これ、若い世代にというよりも…

髙橋 全世代ですね。自分も含めて。
森井 はい、本当に。ところで髙橋さんと私、同じ歳なんですよね。
お互いいつの間にか、社会の中で大きな責任を担う世代 になったんですね。
髙橋 上の世代からバトンを渡されて、ね。今度はわれわれが次の世代にどのようにバトンを渡すのか、大切に考えていきたいですね。

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