
CCCの創業・産業支援の軌跡と「TIB SHOP」を通じて見据える未来図
2025年6月、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、東京都の新たなスタートアップ支援拠点であり、スタートアップによる挑戦を後押しするアクセラレーターやベンチャーキャピタル(VC)、大学、自治体など、国内外のさまざまなプレイヤーとつながれる場所である「Tokyo Innovation Base」において、一般消費者向けプロダクトや、飲食物を扱うスタートアップが期間限定で出店し、テストマーケティングやプロダクトのプロモーションを実施できる「TIB SHOP」を、東京都との協定事業として運営を開始いたしました。
私たちが創業支援に取り組むようになった背景から、「TIB SHOP」に込めた想い、そしてこれからのビジョンまでを、CCCでソーシャルデザイン事業のプロジェクトを牽引するインキュベーション事業支援推進部の櫻澤 圭一と鎌田 順也にインタビューいたしました。
■東京都が運営する「Tokyo Innovation Base」における「TIB SHOP」の運営を開始
創業支援のこれまでの歩みとその原点
──私たちはこれまで、創業支援拠点「スタートアップカフェ」や、公益財団法人東京都中小企業振興公社から運営受託している「Startup Hub Tokyo TAMA」「オープンイノベーションフィールド多摩 国分寺館・八王子館」など、地域や大学、行政と連携しながら多様な創業支援を展開してきました。そもそも、創業支援・産業支援に取り組むようになった背景を教えてください。
櫻澤:2014年、CCCが福岡市から委託を受け、創業都市づくりの拠点機能として立ち上げた「福岡市スタートアップカフェ」が、私たちの創業支援の原点です。国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に選出されている福岡市がスタートアップ支援に力を入れる中で、TSUTAYAのフラッグシップ店を福岡市の中心に持っていたこと、またFCビジネスを通じて九州・福岡という地域に根差してきた一環として、地場の協力者の方々とのご縁を得たことをきっかけに、私たちもその一翼を担うことになりました。
──これまでの創業支援拠点で得た学びや気づきがあれば教えてください。
櫻澤:福岡をはじめ、私たちが運営する創業・産業支援の拠点は大阪・東京にも拡がり、組織も分散していました。それを、2022年に一つの組織として統合し、CCCとして横断的に取り組む体制を整えました。
私たちは公共インフラである図書館の運営受託を起点として自治体と連携するソーシャルデザイン事業を2012年にスタートしましたが、創業・産業支援という新たな価値を提供していくうえで、地域ごとにターゲットや特性が異なる中、グループのシナジーを活かし、より多様な支援をしていく必要があると考えたからです。
具体的には、地域ごとに、創業を目指す人々のニーズや産業構造、行政の支援方針などが大きく異なります。たとえば、福岡では若手起業家やIT系スタートアップの支援が中心である一方、大阪では大学との連携を活かしたアカデミックな起業支援、東京ではプロダクトのテストマーケティングや販路拡大を重視した支援が求められています。こうした地域特性に応じた柔軟な支援を実現するために、私たちはそれぞれ地域で課題に向き合い進化をしてきました。

特に、CCCだけでは不足してしまう専門性や経験を補って頂く地域のパートナーの方々の存在は大きいです。私たちは、起業支援におけるそういったネットワークや地域や分野ごとに進化・成長する過程で身に着けたグループの知見を横断的に活かし、多様なアプローチを展開していく必要があると考えました。
――CCCならではの「創業支援」に対するアプローチがあれば教えてください。
櫻澤:2014年に始まった福岡市の「スタートアップカフェ」では、起業を目指す方々へ向けて、0から1のアイデアを生み出す支援を行ってきましたが、「TIB SHOP」では、すでに開発されたプロダクトにおいて、1から100へと成長を加速させる支援が求められています。私が創業支援に初めて関わった「Startup Hub Tokyo TAMA」ではモノづくり支援を通じて、テストマーケティングや外部連携の可能性も見えてきました。
起業間もないスタートアップの成長の支援は、CCCがFCビジネスやDBマーケティングで培ってきた企業成長支援にも通じるものがあります。公共施設の運営事業者としてスタートアップの成長を支える役割も持ちつつ、より広がりをもった支援にもチャレンジしていきたいです。
「ないものをつくり、良いものにして、世の中に伝えていく」――それは、「カルチュア・インフラを、つくっていくカンパニー。」をミッションに掲げる私たちの使命でもあります。

創業支援を行う上での哲学
──これまで大切にしてきた価値観やスタートアップの方々と向き合う際に意識していることはなんでしょうか?
櫻澤:私たちが一貫して大切にしているのは、挑戦する人を第一に考える「スタートアップファースト」の姿勢です。
図書館をはじめとする運営受託を行う他の公共サービスのおいても、提供者目線ではなく、利用者目線で支援を設計してきました。
また、現場で汗をかくことを厭わず、一人ひとりに寄り添う姿勢は、私たちの大きな強みです。単にコンサルティングを行うのではなく、私たち自身が現場に立ち、起業家や事業者と直接向き合いながら支援を行うことで、信頼関係が築かれていきます。
その結果として、私たちの姿勢や想いに共感し、「この人たちとなら一緒にやってみたい」と感じてくださる方が増えていきます。そうした方々が、イベントの運営やプロジェクトの推進、他の起業家とのネットワーキングなど、さまざまな場面で自発的に協力してくださるようになりました。
「TIB SHOP」事業の参入への意義、CCCが行う創業支援の現在地
──「TIB SHOP」事業にチャレンジをしようと思ったきっかけや意義構想はどのように生まれ、これまでの創業支援拠点と比べてどのような工夫があるのでしょうか?

鎌田:私たちがもつ店舗流通網や、二子玉川 蔦屋家電で培ったプロダクト販売のノウハウ、グループ会社である(株)ワンモアが提供するクラウドファンディング「GREEN FUNDING」との連携を活かし、スタートアップのプロダクトを世の中に届ける支援ができると考えたのです。6月は、「TIB SHOP」には13のスタートアップによるプロダクトが出店しており、今後毎月出店希望者の募集を行っていきます。
──「TIB SHOP」を通じて、スタートアップの成長をどのように支援したいと考えていますか?
櫻澤:私たちはスタートアップを一括りにせず、1社1社に向き合いながら支援しています。成長して世界に羽ばたく企業になってほしいという想いと同時に、うまくいかなかったときの心の支えにもなりたい、と思っています。
鎌田:チャレンジすること自体が素晴らしいことであり、支援しているというより「支援させてもらっている」という感覚です。「TIB SHOP」が飛躍のきっかけになれたら、これ以上の喜びはありません。

CCCらしい創業支援の未来図
──今後、CCCが目指す創業・産業支援の在り方や、地域や大学、行政との創業支援の連携において注力したいこと教えてください。
櫻澤:地域中小企業の共創プラットフォーム「オープンイノベーションフィールド多摩 国分寺館・八王子館」では、中小企業の競争力を高める場を提供しています。スタートアップだけでなく、地域経済を支える中小企業にも光を当て、成長を後押ししていきたいと考えています。
スタートアップと中小企業の掛け合わせによる新たな共創、行政や大学との連携による情熱の融合――私たちは、そうした「新しい産業の芽」を育てる企画会社でありたいと思っています。
また、都市と地方では大きな創業機会の地域格差があると思っているので、それを埋めることも重要なミッションです。地域に育てられた私たちだからこそ、できることがあると信じています。
鎌田:「TIB SHOP」では、出店者の販路拡大、マッチングの数など、成果を可視化しながら支援を進めています。私たち自身も協力者のネットワークを広げ、スタートアップに提供していくことで、より多くの才能と情熱を生み出し、世に広めていくお手伝いをしていきたいですね。