売り場から体験の場へ「EV GARDEN」が提案する次世代のディーラー像

福島日産自動車株式会社(福島日産)は、地域にくつろぎとにぎわいをもたらす施設「EV GARDEN ふくしま」を2025年11月にオープンしました。次世代ディーラー像を象徴する空間として注目を集める本施設で、CCCはブックディレクションを担当。本を通じた知的体験とストーリーテリングを提案しました。今回は福島日産 代表取締役 金子 與志幸氏とCCC 二瀬 慎による対談を通じ、誕生の背景や今後の展望を伺いました。(2026.03.19 up)

(以下、敬称略)

ディーラーのアップデート「売り場」から「体験の場」へ

二瀬:
はじめに、福島県内で40店舗を運営されている福島日産が感じる、地域ディーラーとしての課題感についてお聞かせください。

金子:
福島日産は、日産自動車の代理店として80年以上にわたり、地域のみなさまにご愛顧いただいています。その中で、「クルマの会社として地域の課題にどう向き合うか」を重視してきました。福島県内では、人口減少と高齢化進行による公共交通の縮小や生活圏の分断など、モビリティを取り巻く課題が一段と深まっています。また非常用電源としてのEV活用など、地域の防災拠点としての機能強化も求められています。さらに、コロナ禍以前より、お客様自身が積極的に情報収集できるようになったことで、ディーラーに対して単に「クルマの情報を得る場」としてだけでなく、「ここでしか得られない体験」や「豊かな時間を過ごしたい」といったニーズも増えてきました。そのような社会課題やお客様の行動変容に応じて、ディーラーの役割も従来の“売り場”から「用事がなくても訪れるオープンスペース」「企業と住民がこれからの暮らしや未来を思考する場」「暮らしのインフラとしてのEV」など、“体験の場”へとアップデートしていく必要があると考え始めました。

福島日産 代表取締役 金子 與志幸氏

二瀬:
まさにディーラーは「クルマを売る場所」から「お客様と交流する場所」へと大きな転換点を迎えているように思います。その中で「EV GARDEN ふくしま」は次世代のディーラーの方向性を示す、非常に象徴的な存在のように感じますが、そもそもの構想は、いつ頃から始まったのでしょうか?

金子:
3.11の震災を経て「地域の防災拠点をつくりたい」と強く想ったことがきっかけでした。社長に就任した2022年から、その構想を地域のステークホルダーにご説明しましたが、「どうやって維持していくのか?」という問いが多く寄せられました。ディーラーの役割も変化していく中で、「“箱”をつくるだけでなく、人が集い日常的にあり続けられる場をどうすれば創れるのか?」を模索し続け、2025年11月に「EV GARDEN ふくしま」をオープンするに至りました。その構想を深める上で、CCCの「SHARE LOUNGE」からも大きなヒントを得ています。

二瀬:
今回オープン後に改めて訪れて、お客様だけでなく地域企業も集い、コミュニケーションが生まれる場として機能していることを肌身で感じました。このような場づくりは長年地域で信頼を培ってきたディーラーだからこそ実現できるものだと思います。また近年、モビリティ業界において「共創」が重要なテーマとして挙げられる中で、その実現を後押しする拠点としても大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。

CCC モビリティ・マーケティング・デザイン事業部 部長 二瀬 慎

金子:
実際に、地元のディーラー様をはじめ、他メーカーの皆様も全国各地から「EV GARDEN ふくしま」にお越しくださり、関心を寄せていただいています。モビリティ業界で共創社会を実現していくためにも、メーカーの垣根を越え、お互いの想いやコンセプトを共有しながらパートナーとして協働できる場づくりを広げていきたいと考えています。

本が紡ぐ、知的好奇心に没入できる空間デザイン

二瀬:
今回、CCCは「EV GARDEN ふくしま」内のブックディレクションを担当させていただきました。そもそも、施設内に本を置こうと思った理由は何でしょうか? 

金子:
一つ目は自身の学生時代の経験です。私は福島で生まれ育ちましたが、中高生の頃に好奇心を刺激してくれる場は多くありませんでした。大学進学で上京した際に、本がもたらす面白さに触れたことで、福島にも「本を通じて知的好奇心と出会える場所」を作りたいと考えるようになりました。その想いもあり、施設内には2カ所の学習スペースを設けており、関連図書やトレンドを反映した本を揃えています。県内の学生たちにはリフレッシュしながら好奇心を広げられる場として大いに活用してもらいたいです。
二つ目は、多機能な空間ごとに本を用いてストーリーを表現している点です。食や学習、ワークラウンジ、テナントなど、それぞれの目的が自然と伝わるようにブックディレクションをしていただきました。CCCの洗練されたゾーニングと導線設計により、創造的で集中しやすい環境を実現し、多機能性とストーリーテリングが融合した理想的な空間に仕上がりました。

EV GARDENふくしまのキッズエリア

二瀬:
本を介した空間の没入感は、実際に訪れることで一層深まります。CCCでは、パートナー企業のビジョンを形にするだけでなく、お客様のニーズを反映した企画づくりを大切にしています。今回のブックディレクションでも、福島日産の想いと地域のニーズに寄り添った工夫を随所に盛り込み、没入感の創出に貢献できたことを嬉しく思います。

金子:
ブックディレクションはわずか2週間という短期間でしたが、「本の置き方ひとつで、ここまで一気に雰囲気が変わるのか」と大変驚き、本の力に圧倒されました。今後もCCCと共同でブックディレクションのアップデートを重ねていく予定です。シーズンやトレンドに合わせて、お客様のニーズと我々が表現したいことの接合点を継続的に見出していくことで、「EV GARDEN ふくしま」により期待していただき、さらに感動へと繋がる場へ進化しつづけたいです。

「食」を通じた産官学の交流の中心地

二瀬:
実際に「EV GARDEN ふくしま」を訪れたお客様の反応はいかがでしょうか?

金子:
「食」を楽しみにお越しになっている方が多く、施設内のレストラン「Tuttino Kitchen」では、オープンに際して採用した3名のシェフによる福島県産の食材を用いた本格イタリアンが好評です。特に地域企業や経営者の異業種交流の場として重宝いただいているほか、県庁と市役所の中間に位置する利便性から行政関係者の方も多くご利用いただいています。また、小学生が県内で収穫したリンゴを使ってピザ作りを体験するイベントなども開催しており、産官学で食を通じた体験と交流を生み出しています。今後はマルシェやスポーツのパブリックビューイングなど、我々の「食」の強みを活かしたイベントを通じて、「EV GARDEN ふくしま」にて、電気自動車(Electric Vehicle)のチャージだけでなく、みんな(EVeryone)の心とお腹もチャージできる“庭”として多目的にご活用いただきたいです。

レストラン「Tuttino Kitchen」の内観

二瀬:
EV GARDEN ふくしまは街の中心地に位置しているからこそ、まさに“みんな”が集まるには最適なエリアですね。特に県庁通りは、昔ながらの石畳が残る素敵な街並みだなと感じていました。

金子:
戦前からの路地や小路も数多く現存しており、とても風情のある街並みが魅力です。近年では、30、40代を中心に古民家をリノベーションして飲食店を経営される方も増えており、街全体としても、新しいことにチャレンジする方たちの熱量にあふれています。そんなアクティブシティズンシップ(行動的・積極的市民性)の強い若い世代の交流の場にもなれればと思います。

福島から広がる「モビリティ×コミュニティ」次世代店舗の未来

二瀬:
一般的に「ディーラーは敷居が高い」というイメージが定着している中で、「EV GARDEN ふくしま」には、入ってみたくなるワクワク感と「その先に何があるのか」というドキドキ感が他にはない唯一無二の特徴だと思います。地域ディーラーとして「EV GARDEN」は、今後どのように展開していくのでしょうか? 

金子:
今後は、CCCが実践している他業種とのコラボレーションのように、ディーラーの強みである「モビリティ×コミュニティ」で人が集まる場を創っていきたいと考えています。コミュニティに特化した旗艦店である「EV GARDEN ふくしま」のエッセンスを残しながら、コミュニティを軸にモビリティを展開することで、より幅広いお客様にご来店いただける店づくりを目指していきます。
また福島県は、福島市、郡山市、いわき市、会津市など人口50万人以下の都市が点在しており、地域色が強く、エリアごとに楽しみ方が異なる点が大きな魅力です。「EV GARDEN ふくしま」に続く新たな店舗開発においても、そんな地域ごとの特色や魅力を大いに引き出せるような企画を、地元のモビリティ企業の方たちとも共創し、実現していきたいです。

福島日産 代表取締役 金子與志幸氏と、CCC モビリティ・マーケティング・デザイン事業部 部長 二瀬慎

二瀬:
機能軸にとらわれすぎると、その目的以外のお客様は遠のいてしまう。だからこそ、コミュニティ軸による“間口の広さ”と、それを生み出す徹底したローカライズが、福島日産の次世代店舗における大きな強みになると感じました。

金子:
直近では、2026年11月に浪江町で「EV GARDEN なみえ」をオープン予定です。浪江町は、震災前後で人口が10分の1まで減少しており、“町おこし”が行政の生存戦略に直結しています。しかし、現状を悲観的に捉えるだけではなく、娯楽性に目を向けることも大切です。地域の魅力、楽しさをどうすれば店づくりで表現できるか。それは決して難しいことではなく、地域の方々との交流から具体的な企画やアイデアとして形になっていくものだと思います。地域との関わり合いから地域コミュニティの価値を創出する。そのヒントは、「EV GARDEN ふくしま」にも多く内包されています。

多様なステークホルダーと描く、未来のディーラー戦略

二瀬:
最後に、「EV GARDEN ふくしま」での取り組みを踏まえ、地域コミュニティとディーラーの関係は、今後どのように変化していくとお考えですか?

金子:
全国のディーラーの皆さんも、人口減少という共通の課題感をお持ちだと思います。店舗の統廃合も選択肢の一つですが、コミュニティを軸にした「EV GARDEN ふくしま」のように、地域との繋がりを維持したまま関わり合い方を変容させていくことも一つの解決の糸口になり得ると思います。まずは「店内に本棚を置いてみよう」という気軽なアイデアからはじめ、ディーラーにしかできない次世代店舗の可能性を模索することが重要です。そんな出店戦略の一つの“引き出し”として、ぜひ一度「EV GARDEN ふくしま」にお越しいただき、お互いの悩みやアイデアなど、メーカー問わず新しいディーラーの役割、未来についてお話できればと思います。

「EV GARDENふくしま」の外観

二瀬:
「EV GARDEN ふくしま」には、訪れた人が誰かに話をしたくなる魅力があります。CCCとしても、地域における共創社会実現に向けて、福島日産はじめ多くのステークホルダーの方とご一緒できることを楽しみにしています。

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