街を舞台につながり続ける。代官山 蔦屋書店×乃村工藝社が描く「代官山 爽涼祭」
東京都渋谷区に位置し、暮らしに文化が溶け込む街「代官山」。空間プロデュース企業である株式会社乃村工藝社と代官山 蔦屋書店の出会いにより、街全体を巻き込み、持続可能なコミュニティ活動として進化した「代官山 爽涼祭」の取り組みをご紹介します。(2026.5.20up)
株式会社乃村工藝社
株式会社乃村工藝社(以下、乃村工藝社)は、1892年創業の空間プロデュース企業です。商業施設、ホテル、企業PR施設、ワークプレイス、博覧会、博物館など、さまざまな空間の調査・企画・コンサルティング、デザイン・設計、制作・施工、運営管理までを手がけています。2020年に社内研究開発組織「未来創造研究所」を設立し、外部クリエイターや企業、大学などと共創し、一人ひとりのクリエイティビティを起点に空間の価値をアップデートする研究・実装を行っています。
街と一体となって、にぎわいをつくる
代官山 蔦屋書店は、東急東横線・代官山駅から徒歩5分。各駅停車の代官山駅から小道を歩いてたどり着くこの場所は、「わざわざ来たくなる街」でなければ、お客さまに足を運んでもらえません。だからこそ、代官山 蔦屋書店は店舗だけでなく、街全体の魅力を高めることを自らの使命として捉えてきました。その思いを実現する一歩となったのは、夏祭りの在り方を見直す取り組みでした。
川口:代官山 蔦屋書店は開業から15年目を迎え、多くのお客さまに愛される店舗へと成長してきました。しかし、街に人が訪れなければ、新たなお客さまとの出会いは生まれません。そのため、街と一体となって地域の魅力を高め、その輪を広げていく必要があると考えるようになりました。
2019年まで店舗で開催されていた夏祭り「代官山T-SITEの夏まつり」は、当初、代官山 蔦屋書店に限定した催しでした。しかし、2022年にコロナ禍を経てイベントの再開を検討する中で、近隣の小学校に通う子どもたちにとって「夏の思い出」が空白になってしまっているという背景を知りました。そこで、PTAの皆さまの協力を得て、お祭りの再開を決めました。
従来の「代官山T-SITEの夏まつり」をそのまま再開するのではなく、子どもたちと一緒につくり上げ、地域全体で盛り上げていくことが重要だと考えました。そこで名称を「代官山 爽涼祭」と改め、お祭りの存在意義を問い直しました。
単なる再開では、蔦屋書店単体での盛り上がりにとどまってしまいます。そうではなく、地域全体を巻き込みながら、街の象徴となるようなお祭りへと発展させていきたい。そのような想いから、新たに「代官山 爽涼祭」はスタートしました。

こうして2022年、近隣学校のPTAをはじめとする地域の方々の協力を得て、地域とともに開催する新しいかたちのお祭りが誕生しました。その後、2023年からはヒルサイドテラスなどの周辺施設にも広がり、2024年までに着実に規模とコンテンツを拡大していきました。
サステナビリティという新たなテーマと、乃村工藝社との出会い
転機となったのは、乃村工藝社・未来創造研究所が実施する空間や空間体験の未来を考えるイベント「NOMURA OPEN LAB」を訪問したことでした。そこで出会ったのが、乃村工藝社・未来創造研究所の後藤慶久氏です。サステナビリティの視点で社会に対して自ら問いを立て、空間設計を通じて新たな価値の創出を目指す後藤氏の姿勢は、「持続可能なコミュニティづくり」というテーマのもとで自らの価値を問い直していた代官山 蔦屋書店の考えと共鳴しました。両者の対話を重ねる中で、サステナビリティを軸とした新たな取り組みの可能性が見えてきました。
川口:私たちのお店は、「代官山地域で持続可能なコミュニティを形成している」として評価されていましたが、サステナビリティへの取り組みを意識して行ってはいませんでした。館長とともに後藤さまのお話を聞き、国内外のサステナビリティに関する先進的な事例やラボの取り組みに触れるなかで、「未来創造研究所となら、何か共創できることがあるかもしれない」という気持ちが自然と生まれていました。文化の発信地である蔦屋書店だからこそ、サステナビリティというテーマを企画の軸に据えることで、これまでにない持続可能で先進的な取り組みが実現できるのではないか。そう考えるようになり、後藤さまにご相談させていただきました。
後藤氏:私たち未来創造研究所はイベントを含むさまざまな空間や体験に関する研究をおこなっていますが、研究の効果を検証が出来る良質な機会を探していました。代官山 蔦屋書店は新しい文化を受け入れてくれる土壌があり、働いている皆さんが新たな取り組みを楽しむ姿勢を持っている。川口さんとの会話の中でそれを感じることが出来て、代官山 蔦屋書店は我々の思いを共有し、ともに形にしていける場だと確信しました。地域の方々をも巻き込んで、蔦屋書店という良質な場で持続可能性に関する取り組みを行っていきたいと動き出したのです。

こうして生まれた2025年度の「代官山 爽涼祭」のテーマは『TSUNAGU』。人と人、地域、そして未来へとつながるような企画や体験を提供し、お祭りを通じてこの街をもっと好きになってもらう。両者の想いが重なり合い、新たな「代官山 爽涼祭」がスタートしました。
乃村工藝社の研究が、代官山の夏祭りで花ひらく
「代官山爽涼祭」では、サステナビリティを義務ではなく、楽しみながら取り組むものとして体験できるコンテンツを多数展開しました。乃村工藝社・未来創造研究所が取り組んできた研究や実験的なプロジェクトを、代官山 蔦屋書店で実現した取り組みをご紹介します。
SCRAPTURE
普段は目にすることのない内装に関わる廃棄物を素材に、感情と記憶に訴えかけるメッセージアートとして制作されたプロダクトを、代官山 蔦屋書店内「SHARE LOUNGE」と屋外に設置。書店内では「やまなみ工房」とのコラボレーションで、作家の創造性が垣間見える折り紙などを封入しました。

noon by material record
建築廃材、海岸に漂着したプラスチック片、デニム端材など、さまざまなサステナブル素材を組み込んだ6つのスピーカーを書店内に設置。素材の違いが音の個性として反映され、資源に目を向けるきっかけをつくりました。

植物発電によるイルミネーション
植物と微生物の働きから生まれるわずかな電気を使った明かりのプロトタイプを代官山T-SITEの屋外で実施。人と植物が近づき、触れ合い、会話が生まれるきっかけとなる小さなイルミネーションが、夜の蔦屋書店にやさしい明かりを灯しました。

マテリアルフローアナリシスの導入
持続可能なお祭りを目指すため、ごみを単なる廃棄物ではなく「資源」と捉えるリソースハブを会場内に設置。お祭りに伴うCO2排出量や廃棄物量などを定量的に把握し、環境負荷を客観的に評価するフレームワークを今年度初めて導入しました。

SOUND SEEK powered by oto rea
音声MRを使った街歩き体験

Napping Chair
子ども向けお昼寝チェアの設置

はしらベンチふらっと
埼玉県飯能市の西川林業材を使用したベンチの設置

「代官山爽涼祭」全体の取り組み
乃村工藝社との共創コンテンツに加え、地域の魅力を存分に楽しめる多彩なプログラムを展開しました。
サステナブルなユニフォームの着用
「代官山 爽涼祭」期間中にスタッフが着用していたユニフォームは、誰もが気軽に環境貢献を感じられる循環インフラ「P-FACTS」(ピーファクツ)対応製品です。
「P-FACTS」は、代官山 爽涼祭のパートナーである、ピエクレックス社が主導し、アパレル製品や繊維製品の回収から堆肥化までを一貫して行う循環インフラです。
このユニフォームも長く着用したのちに「P-FACTS」により回収・堆肥化されます。

夏のおわりの大抽選会
毎年人気の、代官山地域のお店が100店舗以上参加する大抽選会です。
昨年から「フォレストゲート代官山」で開催し、1,500名以上のお客様が参加しました。
代官山寄席
こどもの肌チェック体験会
ヒルサイドマーケット長月の市
渋谷区立猿楽小学校の児童との探求学習「シブヤ未来科」とのコラボレーション企画
猿楽小学校の児童のみなさんと一緒に、探求学習の授業「シブヤ未来科」とのコラボレーションで、特別な企画を実施しました。
・5年生は「子ども縁日」の開催
・4年生は「給食のストローのアップサイクルグッズ製作」
・3年生は「広報ポスター製作」

提灯・のれんによる街の装飾

「縁」日

小さな花火大会

毎日開催のトークイベント

「乳化」が生んだ、地域共創
爽涼祭の成功を支えたのは、コンテンツの充実だけではありませんでした。地域の商店会や出店企業、学校の校長先生など、さまざまなステークホルダーとのミートアップを4回実施し、人と人をつなぎ、関係性を築く場として機能させたことが大きな要因でした。
後藤氏:地域の取り組みはよくありますが、地域で営みを続けられている方々と新しいものをどう混ぜ込んでいくかが、いつも難しいところです。水と油のように、これまで住んでいた方々に受け入れられない取り組みでは意味がない。代官山 蔦屋書店はその「乳化」に決して手を抜かないのです。印象的だったのは、出店企業や学校の校長先生など、数多くのステークホルダーとのミートアップ(懇親会)を爽涼祭実施の半年前から4回にわたって実施したことです。そこは単なる情報共有の場ではなく、人と人をつなぎ、関係性を育む場として丁寧に機能していました。コミュニケーションに手を抜かない、丁寧な対話の積み重ねが、イベント当日の活発な空気感をつくっていたのだと思います。当日はすでに参加者同士が打ち解けており、誰に言われるでもなく主体的に動く空気が生まれていました。代官山という地域を盛り上げていく過程で、地域のハブとなり、地域デザインの本質を体現していると感じました。その結果、企業同士が直接つながり合い、蔦屋書店を入れても、それ以外でも、新しい取り組みが生まれるケースもありました。
川口:ミートアップ(懇親会)では、後藤さまが紹介してくださったリペアカフェの映像をみんなで観る時間もありました。オランダのアムステルダム発祥のコミュニティ活動で、壊れたものを地域の人々が無償で直し合うという取り組みです。物を直すとともに、人の心をも治すことができるというストーリーに、参加者全員がサステナビリティへの目線を揃えることができました。義務感でなく、楽しんでやるのだという意識が自然と生まれていったのだと思います。

川口:イベントの成果として、何より「風景が変わった」という実感があります。参加者が楽しそうに、そして主体的に関わっている姿が非常に印象的でした。来場者数の増加も一つの成果ではありますが、それ以上に、一緒にお祭りを盛り上げる仲間が増えたことが、風景の変化につながった大きな要因だと感じています。そうした変化を実感できたこと自体が、とても楽しい経験でした。
遊びながら、文化が生まれる。次の爽涼祭へ
代官山 蔦屋書店と乃村工藝社の対話から生まれたアイデアは、「代官山 爽涼祭」の企画・実現へと結実し、その取り組みは「NOMURA OPEN LAB 2026」での事例発表にまで発展しました。2026年度はさらに規模を拡大し、10日間の開催を予定しています。
川口:テーマは『TSUNAGU』から『あそぶ』へと昇華しています。遊びの中から文化が生まれ、新しい価値やコミュニティへとつながっていく循環を目指しています。あそびながらつながり、地域全体でお祭りを楽しみながら、持続可能なかたちで開催し続けていくこと。それが私たちの目指す姿です。規模を無理に拡大するのではなく、「あそぶ」という大きな枠の中で、それぞれが自由に関わり、自然発生的に広がっていくあり方を大切にしています。
そうした姿勢で取り組み続けることが、地域住民が自分事として関わることのできる持続可能な爽涼祭へとつながっていくのだと考えています。
後藤氏:代官山 蔦屋書店には、「全力でふざけていてほしい」と思っています。これは決して軽い意味ではなく、それぞれの個性を活かしながら、余白のある自由なプラットフォームであり続けてほしいという意味です。いつまでも人の顔が見える書店として、文化や個性が交差する場所であり続けてほしい。また、そうした場だからこそ、私たちも一緒に新しいことに挑戦し続けることができると思っています。
街と人をつなぎ、文化を未来へとつなぐ。代官山 蔦屋書店は、これからも乃村工藝社とともに、「代官山 爽涼祭」を通じてこの街ならではの共創のかたちを描き続けます。
