
働き方をデザインする──「ABW」の考え方をもとにした、新オフィスの挑戦
働き方に合わせてオフィスのあり方も見直す時代。CCCグループは2025年5月、本社を東京都渋谷区から神奈川県横浜市西区みなとみらいに移転しました。社員のリアルな声や経験をもとに、社内プロジェクトとデザインチームが一体となり自社ならではの働き方や文化を“空間”として落とし込んだ新オフィス。
今回は、オフィス移転プロジェクトメンバーの木村 仁美、パートナーシップ&コンサルティング事業統括本部 デザイン部 デザイン推進 藤下 友彦、 デザイン部 店舗規格 渡邉 恵麻の3名にインタビューを行いました。
なぜ今、新しいオフィスが必要だったのか
木村:CCCはこれまで、人事戦略として掲げる「キャリア自律」の考え方に基づき、社員一人ひとりが自律的に働ける環境づくりに取り組んできました。自宅やSHARE LOUNGEを活用したリモートワーク、副業の推進やフレックス勤務など、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をしています。
そうした背景のなか、渋谷にオフィスを構えて約10年の節目を迎えたことを契機に、経営判断としてオフィス移転を決定。これまで分散していた3フロアおよび別拠点を大きな1フロアに統合することで、これからの働き方を実現するオフィス空間づくりを目指すこととなりました。
本プロジェクトは単なる移転ではなく、「10年後の働く環境を再定義する」ことを目的にスタートしました。プロジェクトメンバーは未来の働き方をリードする若手社員を中心にしたいとのことで、お声がけいただき、これまでの延長線上ではなく、新たな働き方にふさわしいオフィスとは何かをゼロベースで考える取り組みが始まりました。

ABW(Activity Based Working)をどう空間に落とし込んだか
木村:本プロジェクトでは、オフィス全体に「ABW(Activity Based Working)」の考え方を導入しています。これは、社員一人ひとりがその日・その時間の業務内容や気分に応じて、働く場所を自ら選択できるワークスタイルです。
私たちは、オフィスの役割を「イノベーションや企画を生み出す、社内外のコミュニケーションやコラボレーションが自然に生まれる場」と再定義しました。働く場所が多様化する時代において、“あえて出社したくなる”場所をどう設計するかが重要だと考えたのです。この再定義を象徴する空間コンセプトとして、「CCC PARK」というキーワードが生まれました。これは、「公園のように誰もが自由に訪れ、過ごし方を自ら選び、思わぬ交流や発見が生まれる」オープンで創造的な空間をイメージしています。
新しいオフィスでは、社員は日々の業務や気分に応じて、エリアを柔軟に使い分けることができます。たとえば、静かな場所で集中したいときには個人用に仕切られたブースを、複数人でのアイデア出しや打ち合わせには開放的なテーブルを、リラックスしたい時にはみなとみらいの景色やアートを一望できるエリアを、といったように、空間自体が働き方の選択肢となっています。
こうした空間づくりを実現できたのは、蔦屋書店やSHARE LOUNGEの設計で培われた知見を持つ社内デザインチームが主導したからこそだと考えています。日常的に場のデザインに取り組んでいるチームだからこそ、「社員にとって本当に必要な機能とは何か」を深く理解し、柔軟かつ高い完成度で形にすることができました。
「使える空間」にするために。CCCデザイナーが手がけることの意味
藤下:CCCグループには、蔦屋書店やSHARE LOUNGE、ホテルやレジデンスなどの空間設計を手がけてきた社内デザインチームがあります。今回のオフィスプロジェクトでは、外部に依頼するのではなく、インハウスのデザイナーが設計を担う体制を取りました。

木村:内部にチームがいることで、企画とデザインの連携が非常にスムーズで、意図やニュアンスを細かいレベルで共有できた点が大きなメリットでした。たとえば、「公園のような空間」という“CCC PARK”のコンセプトも、感覚的なキーワードをすぐに共通理解として落とし込めたのは、社内ならではの強みです。
渡邉:要件定義を行う企画チームと連携し、社内の声を丁寧に拾いながら空間に反映。現場に何度も足を運び、マスキングテープでレイアウトを確認するなど、細部まで現場感覚を持って設計しました。全体のビジョン設計からレイアウト、素材選定、家具のプロトタイピングまで、基本は社内チームが主導しました。施設との調整事項や申請部分では信頼できる外部パートナーとも連携し、実現性とクリエイティビティの両立を図りました。

CCCの「らしさ」を体現した設計
渡邉:オフィス設計で私たちがこだわったのは、社員の“クセ”やカルチャーまでもデザインに取り込むことです。たとえば、CCC社員は「話し好き」で「声が大きい」傾向があります(笑)。そのため集中するためのしっかり静かなエリアも必要でしたし、コミュニケーションの多い環境に合わせて会議室は従来の2倍に増設しました。
また、作業用のデスクはSHARE LOUNGEと同じ1200mm幅を採用。隣に人がいても気にならない、快適な距離感を保ちつつ集中できる空間を目指しました。さらに向かいの人と目が合わないような工夫や、可変式のパネルと連動した植栽配置など、細かな配慮を積み重ねています。
藤下:回遊性の高いレイアウトにもこだわりました。1フロア内に仕切りを設けずに、オフィスをぐるっと回れる設計にすることで、廊下でのちょっとした立ち話や、憩いの場付近での偶発的な出会いなど、自然なコミュニケーションが生まれるようにしています。木材を多用した温もりのある社外商談エリアから、開放感のあるリフレッシュスペース、静謐なクワイエットスペースまで。デザインだけでなく、「自然に行動が促される」ような動線設計や視線の抜けなども工夫しています。実際の写真を交えて紹介します。








デザインに込めた想い
藤下:私たちはこれまで、店舗、図書館、ホテル、レジデンスなど多様な空間づくりを経験してきました。また選書やアートなど人々のライフスタイルに寄り添ったサービスを提供しています。その知見を活かすことで、デザイン性だけでなく「居心地のよさ」や「本物らしさ」といった要素も追求できました。空間を単なる機能ではなく「体験」として捉える姿勢が、今回のオフィスにも活かされたと思います。今後は、積み重ねてきた空間づくりの視点を、より幅広い領域での提案やプロジェクトにも展開していきたいと考えています。
渡邊:オフィス移転での経験が、顧客に向けた空間デザインの説得力を高めてくれると感じています。CCCには空間とサービス、コンテンツを統合してデザインできる強みがあります。また、明るさの感じ方や、過ごし方のクセなど、人の感覚に敏感であることも、私たちデザインチームの強みです。今後も、空間というアプローチから価値をつくり出し、より広く社会や顧客に還元していけるよう挑戦していきます。

木村 仁美
公共事業を経て、美容事業、蔦屋書店事業に参画。現在は蔦屋書店本部 マーケティング戦略部に所属し、横断的な数値管理や分析面から事業全体をサポート。今回のオフィス移転ではプロジェクトの中心メンバーとなり、企画立案から進行管理まで全体を牽引した。
藤下 友彦
大学で建築を学んだのち、インテリア・建築デザイン事務所を経てCCCへ入社。現在はデザイナーとして、オフィスや国内外の店舗、ホテルなど多岐にわたる空間設計を手がける。今回のプロジェクトでは、設計・デザインにおいて中心的な役割を担った。
渡邉 恵麻
デザイン学部で空間や図面設計を学び、蔦屋書店をきっかけにCCCへ入社。入社後は販促・出店戦略を担当し、店舗開発における企画・ゾーニングを担う。その後、デザイン室に異動し、現在は店舗規格業務を中心に従事。